偶奇性と分解

何らかの $T^2 = 1$ を満たす線形変換 $T$ が与えられて、 それによって2種類の成分に分解されるというパターンがよくある。 $T$ の固有値は $\pm 1$ になる。 各固有空間への射影子は $P_\pm = \frac{1\pm T}2$ で与えられる。 実際に $P_\pm^2 = P_\pm$ を満たし完全系を為す ($P_+ + P_- = 1$)。 これにより固有値 +1 の固有空間と -1 の固有空間に分解できる。

複素共役

最たる物は複素共役である。実部と虚部に分解される。 虚部は純虚なので $i$ を括りだせば実数になる。

z &= \Re z + i \Im z, \\ \Re z &:= P_+ z = \frac{z + z^*}2, \\ \Im z &:= \frac{P_- z}i = \frac{z + z^*}{2i}.

因みに $e^{ix}$ を分解すれば $\cos$ と $\sin$ を得る。

e^{ix} &= \cos x + i\sin x, \\ \cos x &:= \frac{e^{ix} + e^{-ix}}2, \\ \sin x &:= \frac{e^{ix} - e^{-ix}}{2i}.

転置

正方行列の転置もある。対称行列と反対称行列 (歪対称行列) に分解される。

A_{ij} &= A_{(ij)} + A_{[ij]}, \\ A_{(ij)} &:= P_+ A = \frac12 (A + A^T), \\ A_{[ij]} &:= P_- A = \frac12 (A - A^T).

更に3つ以上の添字についても分解できる気がしないでもないが、面倒なので深入りはしない。

実のところ、実正方行列について考えている限りは、 これは次のエルミート共役の特別な場合に過ぎない。

エルミート共役

転置を複素行列に拡張しただけである。 エルミート行列と反エルミート行列に分解できる。 $i$ を括りだせば反エルミート行列はエルミート行列になる。 実のところ、これは固有値の複素共役と考えても良い。 対応する記号は存在しない気がするが、ここでは強引に $\Re, \Im$ を使ってみる。

A &= \Re A + i \Im A, \\ \Re A &:= P_+ A = \frac12 (A + A^\dag), \\ \Im A &:= \frac{P_- A}i = \frac1{2i} (A - A^\dag).

鏡映

$x$ を $x' = -x$ に変えてみる。 この時、実数の上で定義されている関数 $f(x)$ はどう振る舞うか。 偶関数と奇関数に分解される。

f(x) &= f_\text{even}(x) + f_\text{odd}(x), \\ f_\text{even}(x) &:= P_+ A = \frac12 (f(x) + f(-x)), \\ f_\text{odd}(x) &:= P_- A = \frac12 (f(x) - f(-x)).

$e^x$ を偶関数と奇関数に分解すれば $\cosh$ と $\sinh$ を得る。

e^x &= \cosh x + \sinh x, \\ \cosh x &:= \frac{e^x + e^{-x}}2, \\ \sinh x &:= \frac{e^x - e^{-x}}2.

もし関数が $L^2$ なら Fourier 変換できて、それぞれ Fourier 空間で実部と虚部になっている。 逆に Fourier 空間での偶奇は実空間の実部虚部に対応する。

もし関数が解析関数なら虚軸上に解析接続して、それぞれ実部と虚部になっている。 $\cosh, \sinh \mapsto \cos, \sin$ がその例である。

何か他にも沢山ありそうな気がしてまとめてみたが余りなかった…。 しかも、結局全て複素共役だったという落ちの気がする。

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